その３．相場を動かす材料とは

実需と仮需の動向を見極める

実際の為替相場と向い合う上で、いかに実需と仮需の動向を見極めるかが重要であるかをこれまで二回に渡ってご説明してきました。

実需とは物や人の移動に伴う資金の流れのことを言います。具体的には貿易収支や原油価格、政策金利などが材料となり、これらの動向によって通貨の買い切り、売り切りに方向感が生まれるのです。
また、仮需とは投機筋やヘッジファンド、個人トレーダーのことを言いますが、彼らは政局や要人発言、中央銀行の市場介入などに反射的に飛びつき利鞘を稼ごうとする習性があります。

インパクトの強い材料については実需・仮需共に影響を受ける場合もままありますが、ボラティリティが短期的に上昇するだけの物や、長く緩やかにトレンドを傾ける材料など、様々なのです。

ケーススタディ１　中東で大規模な紛争が発生した

それではいよいよ具体的なシチュエーションを設定し、その事件が為替にどのような影響を与えるのかをシミュレートしてみましょう。キーポイントは実需と仮需。つまりボラティリティとトレンドのバランスと全体としてのインパクト（エネルギー）の見極めです。

ケース１で設定したような事件は所謂、地政学的リスクに分類されます。特に中東の治安悪化は原油価格に大きな影響を与えます。一方で、最近では米国においてシェール革命と呼ばれるエネルギー革命が起きました。米国での原油算出量が飛躍的に伸びたわけです。これによって原油価格の上昇は米国経済には過去ほど大きな悪影響を与えなくなりました。つまり、米ドルに対してはあまり大きなマイナスではないということですね。では、翻って日本ではどうでしょうか。日本では2011年の東北大震災以降、ほとんどの原発が停止しその影響から原油を始め化石燃料の輸入額が極めて大きくなっています。長年維持してきた貿易黒字も今では見るも無残な赤字へと転落しています。つまり、原油価格の上昇は日本円の海外流出を強く促しますので非常に強いマイナスの影響をもたらすわけです。
方向としては米ドル高・円安ということが分かりましたが、ではトレンドとボラティリティについてはどうでしょうか。

まず、この件について実需の与える影響は無視できないレベルにまで上昇します。紛争もしくはテロの規模にもよりますが、国家レベル同士のいざこざであれば数日や数週間で決着がつくはずはありません。むしろ数ヶ月から数年レベルで影響を与え続ける可能性が高いのです。原油価格の上昇はそのまま貿易収支の結果に現れますからトレンドとしては比較的長い目線で望む必要があります。また、ボラティリティはファーストインパクトを除けばそれほど強くはないでしょう。要人が暗殺されでもしない限り、じっくりジワジワと相場に影響を与え続ける、というケースです。