行動ファイナンスに学ぶ⑥

おさらい

　前回、人間は心の予算（メンタルバジェット）のバランスをとるため、コストと利便性を様々な形で天秤に掛けていることを説明した。
　また、メンタルバジェットによって人間は必ずしも合理的な判断、つまり自分の利益を最大化する方を選択する、ということを行わず、利益を受け取るタイミングを後回しにして「心の安寧」を優先させるケースが往々にしてあることも説明した。

　今回の相場道場は、この心の安寧が経済的に大きなマイナスのインパクトをあなたに与えかねないという事実を認識するためにある。

　1万ドル必要となる家のリフォーム計画についてのアンケート結果を紹介しよう。このリフォームが終われば今後4年間は家に大きな手入れを行う必要はなくなる。
　ここで二種類のローンを選択することができる。

　１．３年ローンで金利は１２％
　２．１５年ローンで金利は１１％
　いずれも繰り上げ返済は手数料無料で行えるものとする。

　あなたはどちらを選ぶだろうか？実はMBA課程を学ぶ57人の学生のうち74％が１を選択したのだ。つまり、家の手入れが不要な４年間という期間とメンタルバジェットをバランスさせるために、金利の高い３年ローンを選択してしまったのである。

　落ち着いて考えてみれば１５年ローンを繰り上げ返済すれば１１％の３年ローンとすることも可能なのだ。それにも関わらず（頭の良いはずの）学生達は金利の高い１を選んでしまった。

投資におけるメンタルアカウンティングの害

　投資においてもこのメンタルバジェットによる害は見過ごせない影響を我々に与える。「行動ファイナンス③」でも説明した通り、人間は過度に「後悔すること」を恐れる。そのため成績がマイナスのポジションを解消する際には、同等か若しくはそれ以上の含み益が乗っているポジションも同時に決済してしまう人が多い。もっと酷い人になると利益が出ているポジションだけ決済して、含み損のポジションについてはそのまま持ち続けてしまう人までいる。
　この行為は税法上非常に不利になる。専門的には税スワップと呼ばれるが、本来ならば税金を抑えるために損の出ているポジションこそ「敢えて」決済しなければならないのだ。
　人間はポジションを決済し、新たなポジションを生成するとそれは一つのメンタルアカウントが閉じ、全く別の新たなメンタルアカウントが開始されたと感じてしまう。そのため損を認めたくない人間の弱い心が損の実現を拒んでしまう。

　だが、前回の最後でも述べたとおり、「人は投資対象に勝手にラベルを貼り付け無理やり意味を持たせようとする。」ものなのだ。

　全体として有効となるポートフォリオ構築にも、このメンタルアカウンティングは大きな害を与える。つまり、局所的な損益に運用者が引き摺られてしまい、全体としての分散性に影響を与えてしまうのだ。その点についてはまた次回、もしくは次々回にでも。